羊文学、初の日本武道館公演で見せた“世界基準の音像美” アジアツアーを経て磨かれた表現力で魅せた一夜【ライブレポート】

2025/10/14 20:00
羊文学、初の日本武道館公演で見せた“世界基準の音像美” アジアツアーを経て磨かれた表現力で魅せた一夜 写真:三浦大輝
羊文学、初の日本武道館公演で見せた“世界基準の音像美” アジアツアーを経て磨かれた表現力で魅せた一夜 写真:三浦大輝
 羊文学が9日、東京・日本武道館にて自身初の武道館公演となる『Hitsujibungaku Asia Tour 2025 “いま、ここ Right now, right here.”』の日本公演を開催した。

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 大阪で幕を開け、アジア各地を巡ってきた今回のツアー。その最終公演として行われた日本武道館公演は、楽曲、パフォーマンス、照明のすべてにおいて“抜き差し”の妙が光る、洗練されたステージだった。繊細でありながら芯のあるサウンドと、計算された光の演出が絶妙に融合し、羊文学がいま確立している世界観を余すところなく体現した。

■絶妙なサウンドコントロール 轟音と繊細さが共存するアンサンブル

 ボーカル&ギター・塩塚モエカは、声をまるで楽器のように自在に操る。柔らかく儚い裏声、透明感のある高音、落ち着いた低音を曲やセクションごとに使い分け、まるで言葉をいろんな楽器に乗せて奏でているかのよう。ギターも3本を巧みに持ち替えながら、歪みや音量を緻密にコントロールし、楽曲やセクションごとの温度差を丁寧に描き出す。

 ベースの河西ゆりかもまた、コーラスワークと多彩なプレイでステージを支えた。力強く図太いトーンと、時には柔らかい音色を使い分けて3本のベースを操り、楽曲の重心を巧みに揺らす。サポートドラマーのYUNA(ex. CHAI)によるタイトで安定感のあるドラミングも加わり、絶妙なサウンドコントロールで世界観を構築。その美しさを、シンプルな照明演出がさらに際立たせた。

 1曲は8日にリリースされたニューアルバム『D o n' t L a u g h I t O f f 』のオープニングナンバー「そのとき」。ピアノのシーケンスに合わせた塩塚の情感豊かな歌声から幕開け。そこに河西のコーラスが加わって、潰れたような歪みのギター、そして図太いベースが重なり、一瞬で羊文学の音世界が立ち上がる。客席にはカラフルなサイリウムが揺れ、アーティスティックでありながらもポップな世界観に、バンドが幅広い層から支持されていることがうかがえる。

 続く「Feel」ではオレンジの温かい照明が会場を包み、スクリーンに映し出される2人の凛とした姿に観客の視線が集まる。後半にはミラーボールが星空のように輝き、幻想的な空間が広がった。「電波の街」「Addiction」ではオルタナティブなバンドサウンドが炸裂。特に「Addiction」では、緑の照明と轟音(ごうおん)のギターが一体となり、幻想的で圧倒的な音像を作り上げた。

 中盤の「いとおしい日々」「つづく」では、ピンクと水色の光が織りなす浮遊感のある演出で、空気そのものを美しく染め上げる。「マヨイガ」ではミラーボールが再び星空を描き、塩塚が「愛してください」とまっすぐに歌い上げる姿が印象的だった。ギターのフィンガーピッキングも冴え、音の“抜き差し”が生む余白が曲の魅力を際立たせた。

 「声」ではギターとベースそれぞれを持ち替え、ポップな音像で引き込んでいく。続く「ランナー」では「ニューアルバムからの曲です」と初めて曲紹介をし、旅をして帰ってきたような爽快な8ビートで会場の一体感を高めた。

■YUIやチャットモンチーを観に来た武道館

 ここでシーンが転換し、「OOPARTS」「mother」では吊るされた円形ライトが分離し、四方に光を放つダイナミックな演出に。「夜を越えて」はさらに勢いを増し、「Burning」では紫の照明とスモークが印象的な幻想空間を作り出した。3人のタイトなグルーヴが炸裂し、ライブの中でも緊張感と没入感が高まるパートとなった。

 続く「more than words」ではイントロのギターフレーズに歓声が上がり、名曲の幕開けを告げた。一瞬の笑顔を見せた塩塚の表情に釘付けになり、赤と青の照明が交錯する中で、歪んだベースのトーンやスラッププレイがライブではさらに際立っていた。「mild days」では一転してリラックスしたムードを生み出し、音と静寂の間に漂う余韻が心地よく広がる。

 ここでサポートのYUNAを紹介するMCを挟み、「GO!!!」ではドラムの16ビートとギターのカッティングが高揚感を生み、観客とともに「ゴー!」と声を上げた。そして「未来地図2025」を経て、本編ラストの「砂漠のきみへ」へ。前奏で「最後の曲です。ありがとう」とシンプルに告げ、三声の美しいコーラスが武道館の空間を包み込む。ラストは轟音と繊細さが共存するアンサンブルで、バンドの成熟を感じさせる本編の締めくくりとなった。

 アンコールでは、1曲目に「春の嵐」を披露。エンドロールを描くような優しいアプローチに、会場は穏やかな熱に包まれる。そしてラストMCでは、塩塚が「今日は来てくれてありがとう!」と感謝を伝え、中学時代にYUI、高校時代にシガー・ロス、そしてチャットモンチーの解散ライブを観に武道館を訪れた思い出を振り返った。「でもいざステージに立ってみるとホーム感がある」と笑顔で語ると、河西も「高校のときにポール・マッカートニーのライブを観に来た」と明かし、「そのときのポールの衣装のように、いつかジャージ姿でライブをしてみたい」と茶目っ気たっぷりに語って和ませた。

 ラストナンバー「光るとき」では、曲名どおりに会場がまばゆい光に包まれる。ファズとリバーブを効かせた伸びやかなギターソロが会場いっぱいに美しく響きわたり、多幸感に満たされた。

 アジアツアーの最終地点として迎えた日本武道館。その音が止んだ瞬間、羊文学の“いま、ここ”は確かに世界へとつながっていた。次なるヨーロッパツアーで、また新たな景色を描き出すことだろう。

■セットリスト
M1 そのとき
M2 Feel
M3 電波の街
M4 Addiction
M5 いとおしい日々
M6 つづく
M7 マヨイガ
M8 声
M9 ランナー
M10 OOPARTS
M11 mother
M12 夜を越えて
M13 Burning
M14 more than words
M15 mild days
M16 GO!!!
M17 未来地図2025
M18 砂漠のきみへ

― ENCORE ―
EN1 春の嵐
EN2 光るとき

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