映画『消滅世界』(11月28日公開)(C)2025「消滅世界」製作委員会
芥川賞作家・村田沙耶香の同名小説を俳優の蒔田彩珠主演で映画化した『消滅世界』(11月28日公開)の予告編とメインビジュアルが解禁となった。アニメーション作家・Wabokuがキャラクターデザインに参加していることも発表された。
【動画】映画『消滅世界』予告編
本作は、結婚生活に性愛を持ち込むことが禁じられた社会を舞台に、愛し合った夫婦から生まれた少女が“普通”と“欲望”のあいだで葛藤する姿を描く。性愛が消えつつある近未来の日本を通して、“正しさ”や“倫理”に潜む不安を鋭く問う物語だ。
予告編では、観る者の「正常」を試すような衝撃的な世界設定とともに、人工授精で子どもを産むことが定着した社会の中で人々が抱える違和感を、鮮烈なビジュアルとともに提示。Wabokuデザインによるアニメキャラクター〈ラピス〉が物語を牽引し、世界的バンドD.A.N.による書き下ろし主題歌「Perfect Blue」が作品世界を幻想的に包み込む。
舞台は、夫婦間の性行為はタブーとされ、恋や性愛の対象が“家庭の外”や“二次元”に移行した近未来の日本。それは“両親が愛し合った末”に生まれた子は異常とされる世界。主人公の雨音(蒔田)は、「お前、人工授精じゃないの?気持ち悪い」と学校でいじめられ、「お母さんは、なんで普通じゃない方法で私を妊娠したの?」と母親の雫(霧島れいか)に嫌悪を抱き、「私はお母さんとは違う。みんなと同じなんだ」と自分に言い聞かせていた。
雨音は、二次元キャラクター“ラピス”への恋によって、自らの“正常さ”を確かめようとするが、「初めて恋をすることを教えてくれた」ラピスを同じく愛する同級生の水内(結木滉星)と特異な性関係を持つようになった雨音は、水内との身体のつながりに心が満たされていく。
やがて大人になった雨音は、性愛のない“清潔な結婚”を望み、夫以外の男性やキャラクターと恋愛を重ねていた。“普通”であるはずの夫と結婚したものの、その夫は「身体が反応してしまって…」と“妻”である雨音に性行為を求める。夫が許せなかった雨音は離婚を選択する。
間もなく、元夫とは正反対の朔(柳俊太郎※柳=※木へんに夘)と出会う。元夫から非常識な行為を受けた雨音に心からの同情を寄せる朔。その朔も、雨音との結婚を意識しながらも他の恋人がいる。そんな今の世界の常識を「あぁ嫌だ。汚らわしい。ちゃんと愛し合って子供を作りなさい」と叱責する雫だが、雨音は朔と結婚。性愛とは無縁の穏やかな結婚生活を楽しんでいた。
その頃、住民全体で計画的に人工授精、出産、管理を行い、住民みんなで子育てをする実験都市「エデン」が千葉に作られていた。そこは恋愛も性も完全に無い世界。雨音と朔にとってまさに“理想の楽園”に居を移す二人。朔から「二人の遺伝子を受け継いだ健全な子を産むんです。もちろん人工授精で」と持ちかけられた雨音は「朔くんとの子なら作りたい」と同意。だが、その人工授精による妊娠が、二人の関係を狂わせていく。
「私ね、怖いの。どこまでも“正常”が追いかけてくる」と困惑を見せはじめる雨音。果たして“エデン”は、本当にユートピアなのか。それとも、ディストピアなのか――。
同時公開されたメインビジュアルには、白い装束に身を包んだ雨音と朔が、無機質な空間で無表情に佇む姿が描かれる。そこには、「正常」と「異常」の境界が曖昧になった社会の不気味さがにじむ。キャッチコピーの「あなたの正常が試される」は、観る者の価値観そのものを問う言葉として鋭く響く。
本予告にも登場する、主人公・雨音が恋をするアニメキャラクターの少年“ラピス”のキャラクターデザインを手がけたのは、ずっと真夜中でいいのに。や、Eve、ポーター・ロビンソンなど数々のMVで知られるアニメーション作家のWaboku。
本作が描く映像世界と、Wabokuが描くキャラクターが高い親和性を示し、物語の中核のひとつとなる“二次元の恋”にリアリティを与えている。自身の作品について「共通するキーワードは“退廃”と“寂しさ”」と語るWabokuと、「その退廃的な世界観が本作に非常に合う気がした」と語る川村誠監督。二人の才能が、視覚的ケミストリーを結実させている。
Wabokuは、「(ラピスの)ラピスのデザインに取り掛かる前に、宙を見つめて小一時間思案しました。普通のアニメキャラにはない奥行きが少しでも生まれ、誰かの心に届くことを願っています」とコメント。
川村監督も「作品のコンセプト、物語に強く共感いただいて作画いただけたことが何よりの喜び。次第に漂白されていく人間の世界とは裏腹に、色彩が失われた世界で色を取り戻していくラピスの造形は、主人公の葛藤と希望を象徴するものとなりました」と賛辞を寄せた。
今年、作家活動10周年を迎え、記念個展「10-COUNT」(12月9日~)の開催でも注目を集めるWaboku。その退廃の美学が、『消滅世界』の持つ静かな狂気と共鳴し、観る者に強烈な余韻を残す。