Netflix映画『フランケンシュタイン』(独占配信中)のプロモーションで来日したギレルモ・デル・トロ監督 (C)ORICON NewS inc.
Netflixで独占配信中の映画『フランケンシュタイン』は、アカデミー賞受賞監督ギレルモ・デル・トロが長年温めてきた“個人的な物語”だ。メアリー・シェリーの古典小説を下敷きに、科学者と“創られた存在”の関係を軸に、父と子、創造と赦し、孤独と希望といったテーマが重層的に描かれる。
【動画】Netflix映画『フランケンシュタイン』予告編
主人公ヴィクター・フランケンシュタインを演じるのはオスカー・アイザック。彼が創り出す“怪物”にはジェイコブ・エロルディが扮し、ヴィクターの母と婚約者エリザベスの二役をミア・ゴスが務める。宗教的かつオペラ的な美意識で再構築されたこのゴシックホラーは、「人間は誰しも“迷子になった怪物”である」という深いメッセージをたたえている。
9月の来日時、デル・トロ監督に、作品に込めた思いや企画を実現させる秘けつまで語ってもらった。
――これまで数多く映像化されてきた「フランケンシュタイン」ですが、ご自身ならどう作りたいと考えましたか?
【デル・トロ】メアリー・シェリーの原作には無数の視点や解釈の可能性があり、100通りの映画が生まれてもおかしくない。それほど豊かな物語です。
これまでに作られたフランケンシュタイン関連の作品はほぼすべて観ていますが、ユニバーサル映画の3作――『フランケンシュタイン』(1931年)、『フランケンシュタインの花嫁』(1935年)、そして『フランケンシュタインの復活(原題:Son of Frankenstein)』(1939年)はどれも素晴らしい作品です。
子どもの頃に観た『フランケンシュタイン対バラゴン』(1965年、監督:本多猪四郎)にも影響を受けました。戦争の歴史と怪獣が同居する設定に魅了されましたし、この作品の中での“怪物”の純粋さ、孤独さには今でも強く心に残っています。
私の作品は非常に私的なものです。父との関係、そして自分が父親として子どもとどう向き合ってきたか、そうしたテーマに踏み込みたかったのです。これまでのどの作品よりも親密で、カトリック的で、壮大で、オペラ的な映画にしたいと考えました。
――まだ誰も成し遂げていない何かを加えられると感じたのでしょうか?
【デル・トロ】良し悪しの問題ではありません。大切なのは、“それが自分の歌かどうか”。そう感じられるなら、たとえ同じ楽曲でも、ビートルズが歌っても、ジョー・コッカーが歌っても、その人自身の歌になる。私はこの物語を“自分の歌”として奏でたかったのです。なぜなら、それは私自身の物語だからです。
――科学者ヴィクター、“怪物”、そして船長という三つの視点をなぜ取り入れたのでしょうか?
【デル・トロ】船長は原作にも登場しますが、彼自身の物語は語られません。私は彼を通じて「過去から学べるのか」「赦しを求めることができるのか」という問いを描きたかった。これは私自身にとっても非常に重要なテーマです。
この映画は、私にとって奇妙な意味で“自伝的”です。父と私、そして私と子どもたちの関係を投影しています。人生には「ごめんなさい」と言う瞬間が必要で、学ぶことが求められます。
物語の最後、怪物が“初めて他者のために意識的に行動する”――それがこの映画の核心です。愛や暴力に反応するのではなく、自分の意思で動く。船長はその行為を見届ける存在であり、希望を象徴しています。完璧ではない世界で孤独でも、人は太陽に向かって歩み、家に帰ることができる。その選択ができるということを、描きたかったのです。
――怪物のビジュアルにこだわりがあったと伺いました。
【デル・トロ】多くの作品では、怪物が事故の被害者のように描かれます。でも私の中のヴィクターは、芸術家であり天才外科医。彼なら、美しく計画された存在を創るだろうと考えました。
私は“怪物”を“新生児”のように描きたかった。まっさらな魂、象牙や大理石でできたような赤ん坊のように。人間は白紙で生まれ、傷つきながら不完全になっていく存在だと私は思っています。
“怪物”には記憶がなく、初めて世界を見る目を持ち、覚える言葉は「ヴィクター」ひとつ。それが彼の全世界です。生まれながらに傷を負い、理解されず、それでも愛を求める存在。その姿はイエス・キリストに重なります。私は彼を、横腹に傷を持つイエスのように神聖で完璧な造形にしたかった。デザインには、頭の形から性格や運命を読み取る「骨相学(フレノロジー)」を参考にし、科学的でありながら宗教的な純粋さを込めました。
――ジェイコブ・エロルディの動きも独特でした。
【デル・トロ】彼はカナダで舞踊のマスターに師事し、“死んだ肉体に再び命が宿る”ような動きを身につけ、深みのある身体表現をしてくれました。
――企画にGOサインを得る秘訣は?
【デル・トロ】(笑)正直、それが一番苦手なんです。40本以上の脚本を書いてきましたが、映画になったのは13本。私のポリシーは、「他人のために映画を作らない」ということ。心から愛せる作品しか作らないし、興味がなければ断ります。自分が作りたい映画を共有できないなら、そのプロジェクトには加わらない。それが私のやり方です。私は自分が心から愛せる作品しか作らないし、興味のない映画を引き受けたことはありません。すべての作品に“自分自身”を投影しています。もし作りたい映画を共有できないなら、そのプロジェクトから離れる。それが私のやり方です。