崩壊対策工事が完了したレッドゾーンの急傾斜地を視察する下鶴隆央鹿児島市長(右)=5月、鹿児島市伊敷7丁目
「土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)に指定されたことで、扱っている土地の資産価値が下がりそう。対策工事や補償は可能なのか」。鹿児島市の不動産業者から南日本新聞にこんな相談が寄せられた。県にも同様の問い合わせが今年に入り百数十件あった。県砂防課は「補償はできないが対策工事は可能」と説明。指定が解除された区域もある。
レッドゾーンは、急傾斜地など土砂災害警戒区域(イエローゾーン)のうち、特に危険が高く、建物が壊れる恐れがあるエリア。宅地分譲など開発の際は知事の許可が必要となり、建物の安全を保つ構造にしなければならない。県は今年4月に指定を一通り終え、7月時点で県内43市町村の1万9059カ所がレッドゾーンとなっている。
鹿児島市谷山北部地区の60代女性宅はレッドゾーン。「近くにダムもあり危険。資産価値が下がるのは仕方ないが、補償があればありがたい」と話す。自宅の一部がレッドゾーンに掛かる同市上町地区の60代男性は「市内は急傾斜地が多く、補償し出すと切りがない」と受け止める。
県砂防課は「土砂災害から住民の命を守るために潜在的な危険性を明示したのがゾーン指定」と強調。「土地の危険性が指定前と後で変わったわけではなく、資産価値が下がったとしても補償はできない」との見解だ。
町内会、自治会などゾーン内の住民らが崖やのり面の対策工事を要望すれば、指定が解除され、資産価値が元に戻る場合もある。
県砂防課の吉野睦課長は「急傾斜地の工事の多くは住民の要望で実施している」と話す。要望を受けて県地域振興局や市町村が現地を調べ、(1)崖の高さが10メートル以上(2)周辺の住宅が10戸以上-などの要件を満たせば、国の補助金を活用して工事を始めることができる。
県は崖崩れや土石流の対策工事で2012年度以降、11市町村34カ所のレッドゾーン指定を解除した(一部解除17カ所を含む)。本年度は当初予算に約17億円を計上し、約60カ所で工事をしている。