クリーニングを終えたクビナガリュウ化石の頭部から頸部。左端が下あごの骨で、頸の骨が40個以上続く。標本は現在、鹿児島県立博物館に常設展示されている(手前は海洋堂造形師・古田悟郎さん作のフィギュア)
■連載「化石ハンター・宇都宮聡のじつは恐竜王国!鹿児島県」④より
鹿児島県の獅子島で発掘されたクビナガリュウ化石を含む岩の塊(かたまり)は、鹿児島大学理工学部におられた古脊椎動物化石の専門家・仲谷英夫教授(当時)の研究室に持ち込まれました。しかし、化石の研究は発掘から約10年間、遅々として進まなかったのです。
学生たちが、硬い岩から化石を取り出すクリーニングという難作業に尻込みしていたからです。特に、薄いエナメル質の歯を多く含む頭部には熟練の技術が必要です。大学院生レベルでは到底手に負えない作業でした。
仲谷教授に研究の進展を確認しようとたまたま鹿大へ行ったところ、「化石の扱いに慣れた君が、クリーニングと研究をやったらどうだ」と提案されました。そこで2014年から、社会人大学院生としてクビナガリュウに関する研究と化石のクリーニングを進めることにしました。大阪で会社員としての仕事の合間、主に週末を利用しました。
クリーニングには専用の機材と作業場が必要です。大阪市立自然史博物館の研究室を借り、約3年かけて取り組みました。余分な岩を外していくと、黒光りする鋭い牙(きば)を何本も持つほぼ完全な下あごをはじめ、国内初となる舌骨(ぜっこつ)、第1頸椎(けいつい)から連続する長い頸(くび)などの主要パーツが次々と姿を現してきました。
骨はさまざまな角度から分析しました。その結果、生息した時代は約1億年前の白亜紀(はくあき)、東アジアエリアで見つかった最古のエラスモサウルス科クビナガリュウの重要な標本―という結論にたどり着きました。
発見から論文発表まで一貫してやり遂げました。恐竜を含む中生代の大型爬虫類(はちゅうるい)化石の分野において、これまでにない取り組みでした。19年春、研究成果を論文にまとめて発表した時は、ライフワークで大きなミッションをやり遂げた満足感でいっぱいでした。
【プロフィル】うつのみや・さとし 1969年愛媛県生まれ。大阪府在住。会社勤めをしながら転勤先で恐竜や大型爬虫類の化石を次々発掘、“伝説のサラリーマン化石ハンター”の異名を取る。長島町獅子島ではクビナガリュウ(サツマウツノミヤリュウ)や翼竜(薩摩翼竜)、草食恐竜の化石を発見。2020年11月には化石の密集層「ボーンベッド」を発見した。著書に「クビナガリュウ発見!」など。