迫田孝也さん
■「俳優・迫田孝也のオモ語り」=南日本新聞2022年9月11日付
8月16日火曜日。その日は朝からソワソワしていました。大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第24回で最期を迎えたあの時以来、源範頼として久しぶりに皆さんの前に登場するからです。場所は静岡県三島市。参加するのは「三嶋大祭り頼朝公旗挙げ行列」。そう! 作品の姿形そのままで皆さんと一緒にお祭りを盛り上げるんです。
15日から17日までの3日間、「三嶋大祭り」は開催されました。コロナ禍の影響で3年ぶりだそうです。1180年8月、三嶋大社の大祭の日に源氏再興を願って挙兵した源頼朝が、山木兼隆を討ちとったその旗揚げを記念して行われている武者行列に、われわれ「鎌倉殿の13人」チームは招かれました。源頼朝を演じる大泉洋さん、安達盛長役の野添義弘さん、仁田忠常役の高岸宏行さん、そして私の4人に加えスタッフ数十名の、まさにお祭り状態での参加です。スタッフや共演者とも久々の対面で話が尽きず、準備をする前から汗びっしょり。いよいよ甲冑〔かっちゅう〕を身につけ、馬にまたがりいざパレードへ! 細い路地を進む間も沿道からたくさんの人たちに声をかけてもらいましたが、大通りに出た瞬間の、あの圧倒されるほどの観衆の熱気は今でも忘れられません。馬上から見える途切れることのない人々の波。歓迎の笑顔がどこまでも続いていました。「おかえり」「ありがとう」とかけられる言葉に思いっきり手を振り返しながら、「こちらこそありがとう」と心の中で叫び続けました。鎌倉殿の13人に出演できて本当に良かったと心の底から思いました。
さらにもう一つ、思い出に残ることがありました。出陣式でのあいさつで、なんと兄頼朝から「範頼…ごめんね。」と謝罪の言葉があったんです! 作品中ではすれ違ったままだったからうれしかったなあ(笑)。この時代を超えた兄弟の歴史的和解は、ネットニュースでも取り上げられ大いに盛り上がりました。ただ、この源範頼、歴史上、頼朝公の旗揚げには間に合っていないのです。今回の行列はたまたまメンバーに選ばれただけ。だからこの場を借りて一言言わせてください。
「兄上、ごめんね」
〈さこだ・たかやさん〉鹿児島市出身。2020年、薩摩大使に就任。KTS「前田正名―龍馬が託した男―」でドラマ初主演。近年の主な出演作はドラマ「真田丸」「西郷どん」「アンサング・シンデレラ」など。MBCの「天国と地獄」や映画「天外者(てんがらもん)」に出演。NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で源範頼役。