鹿児島中央駅東口付近に設置された新かごりん=鹿児島市中央町
鹿児島市のコミュニティーサイクル「かごりん」は24日にスマートフォンを活用した新システムを導入し、再始動する。環境に優しい公共交通、中心市街地の回遊性向上と二つの役割を担ってきたかごりんのこれまでを振り返り、リニューアルへの期待と課題を探った。
4月中旬、JR鹿児島中央駅の東口付近に新しい電動アシスト付き自転車が配置された。再開を控えるかごりんだ。緑色から赤色のデザインに変わり、通行人は物珍しそうに見ている。
かごりんは2015年3月、市街地中心にサイクルポート20カ所、174台の自転車を配備してスタート。初めて年間を通して運用した15年度は約13万2000回の利用があった。
その後、市の管理施設や市電沿線など人通りが多く需要が見込まれる場所へのポート設置を進めると、年々利用回数が増加。新型コロナウイルス下の21年度に過去最多の17万9207回を記録した。
旧かごりんを運営していたJTB鹿児島支店は、市民へのサービス浸透に加えて、感染防止のために公共交通機関を避ける傾向も影響したと推測。コロナの5類移行を控え、市民生活が戻りつつある中、同社とNTTコミュニケーションズ九州支社でつくる新かごりんの共同企業体(JV)の担当者は「継続して利用してもらえるよう取り組みを進める」と話す。
JTB鹿児島支店は、これまでの利用者の約4割は通勤通学者だったとみている。貸し出しはJR鹿児島中央駅付近のポートで多く、平日の朝と夕方に集中。リニューアル後も一定の利用があると見積もる。
新かごりんにシステムを提供するドコモバイクシェアによると、自転車の利用で二酸化炭素(CO2)の排出量削減や、運動による健康増進といった効果が期待できる。
市環境政策課は、これらの利点をPRし、自動車通勤から公共交通機関とかごりんの併用への転換を推奨している。平原陽子課長は「通勤時間帯に自転車の数が足りるよう、スムーズな再配置を進め、利便性向上に努めたい」と話す。
さらなる利用拡大の鍵となるのが、観光への活用だ。新型コロナ禍で減少していた観光客が徐々に戻りつつあり、国内外から交流人口の増加が予想される。かごりんは、中心市街地の回遊で一役買える。
旧かごりんでは、利用料と宿泊代をセットにした宿泊プラン、飲食店やサイクリングコースを紹介するマップ「かごりんマガジン」など、観光客向けのサービスがあった。
新かごりんでは、公共交通機関と連動した観光客への利用促進も検討されている。JVの担当者は「自転車は路地にあるスポットにも行ける。観光客向けサービスの継続、拡充を図っていく」と意気込む。
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利用者にとって大きな変更点は、自転車の貸し出し、返却の流れと利用料金の支払い方法だ。情報通信技術(ICT)を活用し、手続きは主にスマートフォンアプリ「ドコモバイクシェア」に一元化される。
自転車を借りるには、まず利用者情報と決済で使うクレジットカードを登録。専用アプリで自転車に表示されたQRコードを読み取るか、カードキー登録したスマホや交通系ICカードをかざすと鍵が開き利用できる。
スマホ一つで簡単に使えるようになる一方、以前は可能だった現金での支払いは基本的にできなくなる。
旧かごりんの運営が始まった当時、市民から「使い方が分からない」と問い合わせが相次いだ。市環境政策課の平原陽子課長は「リニューアル後、スムーズに利用できるようにホームページや交流サイト(SNS)を使った広報に力を入れる」という。
新しく導入する電動アシスト付き自転車には、通行経路や距離、滞在時間などが分かる衛星利用測位システム(GPS)を搭載。市は、得られる走行距離データを活用した二酸化炭素(CO2)排出削減量の視覚化に取り組む考えだ。
CO2削減は、旧かごりん導入当時から事業の大きな目的だったものの、これまでは利用時の走行距離を確認できず、効果検証ができていなかった。
国土交通省の公表データでは、自動車での1キロの移動を電動アシスト自転車に転換した場合、129グラムのCO2が削減できる。平原課長は「効果を明確にすることで、市民の環境への理解や興味関心の向上につながれば」と期待する。
国交省が2019年に実施した調査によると、シェアサイクルを導入している22自治体の約6割がマイナス収支。事業の最大の課題は採算性だといえる。
大分市は、新かごりんと同じ料金体系で事業を運営。22年度に過去最多の約10万回の利用を記録した。それでも、都市交通対策課の担当者は「公共サービスとして市民が利用しやすい価格に抑えると、事業者単独での運営は難しい。毎年支援金を負担している」と打ち明ける。
旧かごりんも、市の負担金なしでの運営には至っていない。鹿児島市は、新かごりんを運営する共同企業体(JV)に年1490万円の負担金を5年間支払う予定。その後も継続して運営するためには、利用拡大による採算性確保が求められる。
下鶴隆央市長は「かごりんは回遊性向上、CO2削減の二つの面から重要な役割を果たせる」と必要性を強調。「より便利になるので、鹿児島市の美しい自然や街並みを楽しむのに使ってほしい」と利用を呼びかける。