〈資料写真〉2021年2月、作業員の昼食用の弁当をチェックする稲村光弘さん(左)=福島県広野町
再び試練が訪れた-。東京電力福島第1原発で処理水の海洋放出が始まった24日、鹿児島ゆかりの東北在住者は「乗り越えるしかない」と静かに決意を込めた。脳裏をよぎる東日本大震災後の風評被害。「正しい情報を公開し続けて」と訴える。
「福島の魚を積極的に仕入れ、漁業者を支えていく」。原発30キロ圏の福島県広野町を拠点に宿泊施設を営む稲村光弘さん(61)=鹿児島県鹿屋市出身=は風評と向き合う覚悟を口にする。
宿泊客の多くは原発作業員。観光客の受け入れを強化しようと考えていた矢先、放出が始まった。「食事を楽しみにしている人がどれほど来てくれるか」。見通せない先行きに不安をのぞかせる。
26歳の時、仕事で広野町を訪れ、美しい山と海が鹿屋とも重なり移住。「愛着のある福島の人たちが風評に苦しめられると思うと、本当につらい。業種を超えて助け合い、消費者の心を動かしていきたい」と語った。
岩手県釜石市の水産加工会社社長の小野昭男さん(67)=同市出身=は、鹿児島大学水産学部卒。「たまり続ける処理水を考えると、やむを得ない面もある」と複雑な心境を明かす。
震災で操業したばかりの新工場が被害を受けた。原発事故の影響で「東北の魚は使いたくない」という声も聞かれた。この10年、自社の検査結果を顧客に丁寧に説明し、信頼を積み重ねてきた。
今回政府に求めるのも、安全を裏付けるデータの公開。「情報を常にオープンにし、国内外にしっかり発信してほしい」と求めた。