時給アップ→パート不足に拍車「なぜ」…立ちはだかる「年収の壁」 使用者は「働き控え」懸念 代打勤務のしわ寄せも 県内最低賃金897円スタート

2023/10/28 20:50
従業員の勤務状況を管理する南日本総合サービスの社員=鹿児島市小川町(画像は一部加工してあります)
従業員の勤務状況を管理する南日本総合サービスの社員=鹿児島市小川町(画像は一部加工してあります)
 鹿児島県内の最低賃金(最賃)が6日から、897円となった。長引く物価高騰への対応で引き上げ幅は44円と過去最大となり、労働者の所得増が期待される。ただ公務員や会社員に扶養されるパート従業員の中には、年収が一定額になると保険料支払いなどが発生して手取りが減るケースが生じる。いわゆる「年収の壁」だ。壁を意識しての働き控えも予想され、使用者側からは「人手不足に拍車がかかりかねない」と懸念の声が上がる。

 姶良市の食品製造工場でアルバイトとして働く女性(62)は、最賃引き上げで時給が約50円上がった。ただ年収106万円の壁があるため、手取り総額は増えない見込みで「賃上げのメリットを受けられない」とこぼす。

■労働者の嘆き

 女性はフルタイムで働くのは体力的に厳しいため、壁を超えないように月3時間の就業調整をしていた。今後は以前より5時間多い月8時間の調整が必要になる。「物価高で生活は厳しい。仕事は楽しいから、壁がなければもう少し働きたいのに」と話す。

 年収の壁に左右されないはずの労働者にも余波はある。鹿児島市のスーパーのパート女性(30)はフルタイムで週5日働き、年収は185万円ほど。既に年収の壁は超えている。

 周囲に就業調整をする同僚は多く、代わりに勤務に入ることも少なくない。「最賃が上がって手取りが増えるのは嬉しいが、全国平均の1000円には遠く、生活が変わるほどではない。(代打勤務の)しわ寄せが来るだけでは」と不安をにじませる。

■使用者の悩み

 最賃上げに伴う原資の捻出に加え、パートらの働き控えによる影響を心配するのは経営側だ。「ただでさえ人手不足が深刻なのに、さらに厳しくなる」。南日本総合サービス(鹿児島市)の吉田健朗社長(58)は懸念する。

 清掃・警備などの業務委託を受ける同社は従業員の6割がパート。多くが「年収の壁」を意識している。働き方改革で有給休暇取得は増え、残業も少なくなっている。「生産性向上が求められる時代とはいえ、警備など業種によっては限界がある」と窮状を訴えた。

 総務省の労働力調査によると、2023年度第2四半期の県内の労働力人口は80万5000人で、前年同期より2万人減少している。労働力人口比率も59.5%と全国の63.2%より3.7%低く、全国から見ても鹿児島は人手不足が顕著だ。

■政府の対策

 政府は従業員101人以上の企業に対し、パートらの年収の壁超えに伴う保険料支払いで、その分を肩代わりした場合に補助金を出すなどの対策を示す。100人以下の企業で壁を超えた場合には、人手不足のための一時的残業であると事業主が証明できれば連続2年まで扶養が維持される。

 県内外に複数店舗を構える飲食店は、従業員1099人のうち、943人がパート・アルバイト。人事担当者は「年収の壁」を超えないよう扶養内で働く従業員が多いため、政府の対策に関心を寄せる。人事担当者は「飛び付きたい気持ちはあるが制度が複雑。しばらくは静観したい」と慎重な姿勢を見せる。

◇年収の壁とは

 会社員や公務員に扶養されるパート従業員らの年収が一定の額に達すると、社会保険料の支払いが発生したり、税の優遇を受けられなくなったりする。手取りが減るのを避けるため、働く時間の抑制を招き、人手不足の深刻化につながっている。一部企業で配偶者手当が支給されなくなる「103万円の壁」、従業員101人以上の企業で社会保険料が発生する「106万円の壁」、100人以下の企業では「130万円の壁」がある。106万円の壁を超える場合、年収を125万円まで増やせば手取りが106万円に達する。

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