ユーラスエナジーホールディングス(東京)と電源開発(同)がそれぞれ鹿児島県の紫尾山系で計画する大規模風力発電事業は、互いに住民説明や環境影響評価(アセスメント)を進める競合状態が続いている。発電事業の前提となる国の固定価格買い取り制度(FIT)ではユーラスが認定を受けているが、電源開発も認定の「取り消しルール」を材料に事業継続を模索する。
両社が計画するのは薩摩川内、阿久根、出水3市とさつま町にまたがる山間部のほぼ同じ地域。「同時に大量の風車が立つのか」「結局どちらが建てるのか」。計画が浮上しておよそ5年。周辺住民から戸惑いの声が上がっていた。
ユーラスは2019年3月、経済産業省からFITの事業計画認定を受けた。同一地の認定は1事業に限られる。
ただし、今回の認定は条件付きだ。認定には建設予定地の所有権や使用権を証明する書類が必要。今回の計画地には国有林が含まれ、貸付契約には法令手続きや環境アセスが求められる。これに時間がかかるため、書類提出は3年間の猶予を与える「3年ルール」がある。電源開発はこの期限切れに期待する。
ユーラスの期限は22年3月に迎えたが、国有林貸付契約を結べていない。同社は環境アセスが終了していないなど必要書類が提出できない理由をまとめ、所管する九州経済産業局に申し立てた。受け取った同局は9月に受理印を押した。
ユーラス国内事業第3部の清水俊哉課長代理は「認定通知書には3年ルールで取り消しになる『可能性がある』と記載されている」とし、申立書の受理は「事業が取り消されなかった証左」と説明。1月9日現在も書類は未提出だが、同省ホームページで認定事業者として掲載されている。
一方の電源開発側は「九州経済産業局から『受理印は3年ルールによる取り消しがないと確約したものではない』と聞いた。事業者間調整も含め、事業は引き続き検討していく」と継続に意欲を示す。
3年ルールを巡っては21年に国の審議会で、期限を超える事業者が一定数おり猶予が必要と業界団体が訴えていた。九州経済産業局は取材に「個別案件にコメントはしない」と回答。3年ルールには一般論として「個別の状況を踏まえて柔軟に対応している」とした。
■ユーラスは風車数や残土処分方法を見直し
紫尾山系で風力発電事業を計画しているユーラスエナジーホールディングス(東京)は、地元からの要請や国の勧告を受け、事業計画を一部変更した。風車の数や配置、残土の処分方法を見直した。2023年初頭に、環境アセスメント評価書の提出を目指す。
これまでの計画では、風車25基を配置する予定だったが、19基に減らす。国から勧告を受けたクマタカの生息や、地元から要請のあった薩摩川内市の藤川天神からの景観に配慮した。
工事に伴い発生する大量の残土は事業地域に埋め立てる方針を変更。出水、阿久根両市境にあるシラスの採掘場跡へ搬出することにした。
ユーラスによると、地元の6地区から同意を得られたという。しかし、残る薩摩川内市藤川地区では景観や土砂災害などに懸念があるとして反対の声があり、同意を得られていない。