新函館北斗駅に停車する北海道・東北新幹線「はやぶさ28号」(H5系)の絵
鉄オタなら一度はやってみたい日本縦断鉄道の旅-。ついにその機会がやってきた。高校総合体育大会(インターハイ)の取材で、出張先の北海道から特急と新幹線を乗り継ぎホームの鹿児島まで一日で帰り着く。「この時期(お盆)なら飛行機より安くすみます」(約5万5000円。飛行機より1万円安い)。経費節減を強めにアピールしたら上司を説得できた。さあ、15時間の旅の始まりだ。(村上隼)
※JR九州以外の鉄道各社からは写真掲載の許可が得られなかったため、色鉛筆で描いた絵で代用しました。
8月中旬、午前8時40分、JR札幌駅はスーツケースやバッグを持った帰省客らでごった返していた。北海道なのに朝から暑い。しかも寝坊して大慌てでホームに駆けつけたものだから、汗がどっと吹き出る。
■千歳・室蘭・函館線
午前8時43分発の特急「北斗6号」函館行き。鹿児島中央駅まで今日中に帰り着くには、これが“最終列車”だ。
なんとか間に合って列車に乗り込むと、デッキまで人があふれていた。とても客車の中までたどり着けそうにない。
扉が閉まり、ゴトゴトと音を立てて動き出す。アイヌ語で「イランカラプテ(こんにちは)」と車内案内放送が流れ、北海道らしさを実感した。
アイヌ語でのアナウンスはもう一つ。白老駅到着の直前、「ウアイヌコロ コタン “ウポポイ” オルン パイェ クル アナク シラウォイ オッタ ラプ ヤン」と、約6秒にわたる案内が流れた。「民族共生象徴空間『ウポポイ』へおいでのお客さまは、白老でお降りください」という意味だそうだ。
結局、長万部駅で席が空くまでの約2時間半は立ちっぱなし。足が棒になるとはこのことか。「すいているだろう」と高をくくり、札幌-新函館北斗を自由席で取ったことを後悔した。
■北海道・東北新幹線
午後0時22分。途中の新函館北斗駅に3分ほど遅れて到着した特急列車を降りると、目の前に東京行きの北海道・東北新幹線「はやぶさ28号」が待っていた。
車両の側面には北海道をあしらったマークが大きく描いてある。こ、これって現在3編成しか運用していないJR北海道のH5系じゃないか。ほとんどがJR東日本のE5系(46編成)だからH5系はレアだ。こいつを引き当てるなんて、めちゃめちゃツイているぞ。
乗り換え時間は26分。昼ご飯を買う時間くらいはありそうだ。20人ほどの列ができた売店にダッシュし、駅弁「蝦夷ちらし」を手に取った。
席に着いて弁当のふたを開けた瞬間、北海道の潮の香りがふわりと鼻こうをくすぐる。特急列車でほとんど立ちっぱなしだった疲れからか、サーモンやイクラ、カズノコが盛られたちらしずしを、ほんの10分ほどでぺろりと平らげた。
木古内駅を出発すると、青函トンネルを紹介する車掌のアナウンスが流れた。全長は53.85キロ。このうち海底部分は23.3キロ。海底から100メートルの地点に掘られているそうだ。これほど丁寧に説明してくれるのか、と感動した。
海底に潜っている時間は10分ほど。JR北海道によると、青函トンネルは普段、地上を走る時より速度を落とし160キロで通過するという。
お盆や年末年始は210キロで走らせることもあるというが、今年の実施は8月12〜16日。高速運転を味わうチャンスだったのに、残念…。
盛岡駅を過ぎると、国内最速の最高時速320キロを誇る「はやぶさ」は、その実力を見せつけるようにぐんぐん加速する。初体験の速さに慌ててスマートフォンの速度計アプリを起動した。「320」という数字に見入ってしまう。記念にスクリーンショットした。
午後5時4分、東京駅に到着。この区間の4時間16分は苦痛だった。車両に喫煙ブースがなかったからだ。JR北海道とJR東日本が管轄する新幹線は全面禁煙。肩身の狭さを痛感した。旅はまだ半分が終わったばかりなのだが…。(そして東海道・山陽・九州へ)