2020年11月に長島町獅子島で見つかった翼竜の化石。内部が空洞になっており、翼(前脚)か後ろ脚の一部分の骨化石だと分かった
連載[化石ハンター宇都宮聡のじつは恐竜王国!鹿児島県]⑥より
東アジア最古のエラスモサウルス科クビナガリュウと判明したサツマウツノミヤリュウ。その喉元(のどもと)から見つかった世界初のペリット(吐き出した生き物の骨などの異物)の化石について、東京都市大学の中島保寿准教授と私は、国際論文を書くための作業をスタートさせました。
国際論文にするには、サツマウツノミヤリュウが生きた環境を詳細に説明しなければなりません。発見地の地質や地層、周辺の堆積物(たいせきぶつ)や同時代の地層にある化石を調べることで、海の深さや陸からの距離など、当時の状況が分かるのです。獅子島へ渡り、再調査をすることにしました。
2020年秋、準備を進めている最中のことでした。NHKの動物番組「ダーウィンが来た!」のディレクターから連絡がありました。
サツマウツノミヤリュウの研究について番組で取り上げたいので、獅子島調査に立ち会いたいという打診でした。私たちは快諾し、テレビカメラが立ち会うことになりました。
調査するのは発見地の周辺です。中島准教授は地質や地層を、私はサツマウツノミヤリュウと同じ地層の化石を中心に探っていきました。
発見地から20メートルほどの海岸の岩場を見ていると、露出している不思議な棒状の化石に気が付きました。最初は「アンモナイトかな」と考えたのですが、気になりました。化石を見せた瞬間、中島准教授の顔色が変わりました。
「こ、この化石、ど、どこで見つけましたか! こ、これは翼竜の化石ですよ!!」
翼竜(よくりゅう)とは空を飛ぶ爬虫類(はちゅうるい)。翼竜の化石が発見されるのは鹿児島では初めてです。化石を再度確認しました。薄い骨に覆われて中は空洞(くうどう)になっており、確かに脊椎(せきつい)動物の骨のようです。
中島准教授は以前、北海道の翼竜化石を研究していたので、即答できたのでした。この奇跡的な発見の瞬間を、テレビカメラは捉えていました。
これが、さらなる発見につながっていきます。
【プロフィル】うつのみや・さとし 1969年愛媛県生まれ。大阪府在住。会社勤めをしながら転勤先で恐竜や大型爬虫類の化石を次々発掘、“伝説のサラリーマン化石ハンター”の異名を取る。長島町獅子島ではクビナガリュウ(サツマウツノミヤリュウ)や翼竜(薩摩翼竜)、草食恐竜の化石を発見。2020年11月には化石の密集層「ボーンベッド」を発見した。著書に「クビナガリュウ発見!」など。