「崩れたことないから…」 思い込みが20人の命を奪った30年前の土石流災害 本当に安全な避難場所を選ぶための教訓に

2023/09/04 07:25
扇山集落の犠牲者20人の名前が記された慰霊碑を見つめる畠中博文自治会長=南さつま市金峰町大坂の扇山公園
扇山集落の犠牲者20人の名前が記された慰霊碑を見つめる畠中博文自治会長=南さつま市金峰町大坂の扇山公園
 鹿児島県内は1993年、7月7日の「七夕豪雨」、8・1豪雨、8・6水害など悪夢のような風水害が続いた。追い打ちをかけるように戦後最大級と言われた台風13号が直撃した9月3日午後4時半ごろ、南さつま市金峰町大坂の扇山地区の民家を土石流が襲い、集団避難していた20人が犠牲となった。20人は「周辺は過去に崩れたこともなく安全」と判断し、同じ民家に一斉に避難したとみられる。何が起きたのか。

 鹿児島大学の地頭薗隆教授(65)=砂防学=は「表層崩壊」が大災害をもたらしたと説明する。シラス土壌では100年に一度ほどの割合で起きるが、扇山は硬い堆積岩。傾斜も緩やかで、数百年もしくは千年に一度しか崩れない地質だった。そこに避難先を選ぶ際の落とし穴があった。

 硬い地盤でも、年月で岩石は風化する。生い茂った樹木の根が土をほぐし、ミミズなどの生物も表層を柔らかくした。雨水が通りやすくなった所に、大量の雨といった条件が多数重なったと分析する。

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 「『過去に崩れたことがないから大丈夫』ではない。逆に危険物質が蓄積されつつあると考えることが大事」と地頭薗教授は強調する。人の寿命は100年ほどだが、自然の周期は長い。言い伝えや経験則だけでは予測できない。「傾斜地で崩れない場所はない。当時と比べ防災技術は格段に進歩したが住民の防災意識や知識がまだ追い付いていない。どう縮めていくかが課題で、今こそ扇山の教訓を生かす時」と訴える。

 被災した30年前にはなかった土砂災害警戒区域と特別警戒区域の指定は、県内で2万3336カ所(5月19日現在)となった。南さつま市は指定をもとに2021年9月、危険地を記したハザードマップを全1万7000世帯に配った。

 市消防団(656人)の東馬場伸団長(73)=金峰町尾下=も「安全な避難場所の選定がいかに大事か。それが扇山の教訓」と話す。救助を経験した数少ない団員として、「自宅や避難経路が安全がどうかハザードマップで繰り返し確認することが大切」と訴える。

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 林業や農業が盛んだった扇山集落。最盛期は42世帯約120人が暮らしたものの過疎が進み、災害が追い打ちをかけた。現在5世帯8人。大半が高齢者だ。

 19年度から自治会長を務める畠中博文さん(58)は人が少ないことが「逆にやりやすい」と前向きに捉える。大雨や台風などの際、災害後に整備された「扇山コミュニティ消防センター」を開け避難者を受け入れる。警戒区域外にあり、体の不自由な高齢者らには事前に避難を呼びかけ車で送迎もする。

 台風6号が県内を通過した今年8月9日、災害前から唯一集落に暮らす中堂園信子さん(87)にいち早く声をかけた。足が不自由で家にいた方が安全ではと互いに確認した。「この集落から災害で亡くなる人を一人も出さないことが最優先。二度とあんな悲劇を繰り返したくない」。教訓を胸に集落の防災力向上を模索する。

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