明治創業の婦人服店の一角にカフェ「itoshimacco」を開いた田之上慶三郎さん、真喜子さん夫妻=福岡県糸島市
鹿児島県指宿市の指宿商業高校出身で、プロ野球ソフトバンクホークスで投手やコーチとして活躍した田之上慶三郎さん(52)が、福岡県糸島市で第二の人生に踏み出した。1年前に倒れた妻・真喜子さん(54)を支えようと今季、34年の野球人生に自ら別れを告げた。真喜子さんの実家の婦人服店に併設したカフェ「itoshimacco」に立つ。
指宿市岩本で生まれ育ち、1990年にドラフト外でダイエー(現ソフトバンク)に入団。プロ8年目で初勝利を挙げ、2001年には13勝7敗で最高勝率のタイトルを獲得した。07年の引退後もホークスと日本ハムで計16年間、途切れることなくコーチを続けた。
転機は22年の年末。20年から実家の経営を引き継ぎ奮闘していた真喜子さんが過労で救急搬送された。1897(明治30)年創業の歴史を守りつつ、「もっと地元に貢献したい」と糸島の特産品の発信を始め、カフェの計画も進めていた。
下積み時代から支え、引退後も野球に集中させてくれた。家事も子育ても任せきりだった。「今度は自分がサポートする番。後悔しない選択をしたいと思った」と田之上さん。ホークスの2軍投手コーチを務めていた今夏、ユニホームを脱ぐ決断をした。
10月の退団後、コーヒーの専門家バリスタから週1回、抽出法を学ぶ。「入れ方で味が違う。どうやったらおいしくなるか。つい完ぺきを求めたくなる」と笑う。「そんな所がピッチャーっぽい」とは真喜子さんの評だ。11月14日にオープンしたカフェでは、糸島産のドライフルーツを使ったチョコレートや地元の米も販売する。
野球から離れて2カ月。「自分で決断したことなので、さみしさはない。妻の負担を減らせるよう目の前のことをやっていく」と意気込む。故郷の指宿市で2014年から開く野球教室は、できる限り続けるつもりだ。「地元への恩返し。諦めずに一生懸命やり続ける大切さを伝えたい」と話す。
カフェには元チームメートやファンも訪れる。地元の常連も増えてきた。今後の目標を聞くと、少し考えて「ラテアートができるようになりたい」と笑った。