初めてボケた日の記憶。「ギョーザ!」で取った笑い。勘違いの始まりだった(連載 サンシャイン池崎の「イケザキクエスト第7話」)

2023/10/27 14:07
 初めてボケた時のことを覚えていますか? 僕は覚えてる。ふざけて家族や友達を笑わせるとかではなく、笑わせてみろ、という気構えの赤の他人に向かってボケを放った、最初の戦いの記憶。

 日常生活で笑いをとるのは比較的簡単だ。なぜか? みんな特にお笑いに対する防御を固めていないからだ。ノーガード。防具も何もつけてない状態だ。それはそうだ。日々の生活は戦いではない。

 お笑いライブは違う。お金を払ったお客さんが、さあ笑わせてみろ、と身構えているのだ。しかもお客さんは何人もいる。鉄の鎧(よろい)を着ている防御力高めの人もいれば、旅人の服ぐらいの比較的防御力が低い人もいてさまざまだ。そこに芸人は用意してきたネタという武器で立ち向かっていく。これはまさに戦いだ。

 僕の初戦は、小学1年生の時だった。

 池崎家はバラエティー番組ばかり見る家で、僕は自然とお笑いを好きになっていたし、人を笑わせるのが大好きだった。授業中に答えるときにわざとトンチンカンな事を言ったり、体育の着替えでお尻を出したりして笑いをとっていた。僕は気付いていなかった。それは戦いではなく、平和な村の中で村人相手におもちゃの剣を振り回しているに過ぎないことに。

 本当の戦いは突然やってきた。

 ある日の昼休み、階段の踊り場で他のクラスの知らないやつに急に話しかけられた。

 「お前が池崎か。面白いらしいな。俺を笑わせてみろ」

 どうやら、村人相手におもちゃの剣で調子に乗っているといううわさを聞いてきたらしい。初めての戦いだった。心臓がキュッとなった。襲いかかる緊張とプレッシャーが、今までやってきた笑いがただの遊びだったことをいや応なしに僕に気付かせる。

 どうする? 相手は万全の態勢で待ち構えている。まるで隙がない。ダメだ。間を空けすぎるな。間を空けるとハードルが上がるとバラエティー番組で聞いたことがある。何か武器は? これしかない。一つだけ持っているギャグ。たとえこれが攻撃力が低い“ひのきのぼう”だとしても全力で攻撃する。くらえ! 僕は勢いよく右耳を指で畳んで叫んだ。

 「ギョーザ!」

 静寂が流れた。時が止まったかのようだ。ダメだ、吐きそう。これが本当の戦いか、なんて厳しい世界なんだ、と敗北を覚悟した瞬間-。

 「わっぜ面白い。負けたがよ」

 強そうに見えた敵は、ロールプレーイングゲームで出てくる最初の敵「スライム」だった。初勝利を収めた僕は、これから先、味を占めたギョーザで数々の敗戦を重ねていくことを、まだ知らない。続く。

 さんしゃいん・いけざき氏 1981年、鹿屋市生まれ。お笑い芸人。テレビ東京「おはスタ」、NHKラジオ「小学生の基礎英語」出演中。日本テレビ系「嗚呼!みんなの動物園」では本名の池崎慧として、預かり猫のボランティアに取り組む。著書に「空前絶後の保護猫ライフ! 池崎の家編」(宝島社)、「クック池崎のジャスティス!駄菓子クッ王!!みんなでウマシャイーン!!編」原案(小学館)。

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