〈あたしの全てがあたしのために〉マイノリティーの思い歌うソングライター。少数派を切り捨てれば何も残らない。「誰もが対等に」願い込める1票【U30のまなざし 衆院選鹿児島】

2021/10/26 08:30
楽曲制作が行き詰まったときに来るというスタジオで歌うよしむらさおりさん=鹿児島市新屋敷町
楽曲制作が行き詰まったときに来るというスタジオで歌うよしむらさおりさん=鹿児島市新屋敷町
 「♪口に出すまでもないんだけど あたしの全てがあたしのためにある-」

 誰かの娘、妻、母としての生き方だけを押しつけられがちな女性や、社会の枠組みから排除されている性的少数者。シンガー・ソングライターのよしむらさおりさん(30)=鹿児島市=が、2021年に作った新曲「これでいい」は、そんなマイノリティー(少数派)に寄り添う。誰もが対等な人間で、自分のために自分の人生を生きていいと訴える。

 バイセクシャルを公言。20年末に男性パートナーと事実婚を選んだ。「私たちの場合は法律婚も可能だけど、今の婚姻制度は同性カップルや改姓を望まないカップルなど、さまざまな人を除外している。全ての人が平等になるまでは使いたくない」と話す。

 結婚式場で歌う仕事も多い。「今まで歌った挙式は男女カップルだけ。同性婚がきちんと法制化され、同性カップルの挙式でも歌えたら」と願う。

 20代前半までは、同性と結婚できないことを「そういうものだ」と思い込んでいた。17年に初アルバム「二つのスカート」をリリース。女性への片思いをつづった表題作を歌ううちに、「今のままでいいのか」と疑問を持つように。当事者団体の活動も知り「政治と社会の仕組みが、生きづらさを作り出している」と気付く。18年のアルバム2作目「palette」から「こんな社会になってほしい」と歌に願いを込め始めた。

 札幌地裁が今年3月、同性婚を認めないのは憲法14条に違反すると初判断。鹿児島市は来年1月、パートナーシップ宣誓制度を導入する。社会に少しずつ動きが出てきた。

 同性婚や選択的夫婦別姓が衆院選の争点に挙げられる中、依然として否定的な候補者は少なくない。「二つの問題の根っこは同じ。女性や性的少数者の方を向かなくても大丈夫だと思われている」と憤る。「少数派を全て切り捨てれば、後には何も残らない。切り捨てない政策を掲げている党に投票する」

 新型コロナウイルスの影響で、ライブや結婚式の仕事が減ったこともあって、最近は毎月1曲以上のペースで曲作りに励んだ。リリースはこれまで35曲。「これでいい」には、女性の加齢がマイナスに捉えられる性差別への批判も込める。「女性だって経験を積み深みを増す。女性だって楽しく年を取れる。昔の自分より30歳の今の自分が好き」

 ♪一つずつ大丈夫になってく 重ねた月日は答えをくれるよ-

【取材後記】人権侵害の現状是正へ「まず制度を」

 今年4月から鹿児島市を担当している。市パートナーシップ宣誓制度関連も取材。市が来年1月の導入に向け準備を進める一方、所管する市議会市民文教委員会では議員から「理解が進んでおらず時期尚早」とする意見が出続けている。よしむらさんは「まずは人権侵害の現状を是正すべきだ。制度が先で、理解が進むのはその後」と指摘する。誰もが尊重される社会実現のため、「人権」の観点も胸に一票を投じたい。(有田佳織、30歳)

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