移植医療のシンボルカラーのグリーンにライトアップされるかごしま水族館=10月、鹿児島市
病気や事故で臓器の機能が低下し、移植でしか回復が見込めない人に実施される臓器移植。国内の提供・移植件数は近年、増加傾向にあったが、2020年は前年比で大幅減少した。鹿児島県内では昨年、移植件数が最も多い腎臓の提供がなかった。生前の提供意思が分からない人が亡くなると、家族が医療関係者と話し合い提供を検討するが、新型コロナ禍で対話が難しくなったのも要因とみられる。
日本臓器移植ネットワーク(JOT)によると、19年は全国で125人から臓器提供があり、480件の移植が行われた。いずれもJOTが発足した95年以降で最多だった。20年は一転して提供77人、移植318件となりそれぞれ19年の6~7割にとどまった。
県内の腎臓の提供は17年以後、1~3件で推移していたが、昨年は16年以来なかった。
移植希望者の支援を行う県移植医療アイバンク推進協会(池田琢哉理事長)によると、生前に提供意思を示していない人が脳死状態となると、臓器提供は家族の判断で行われることが少なくない。家族が提供を考えるきっかけは医療関係者からの説明が中心という。
県内で唯一、腎臓移植手術を行う鹿児島大学病院血液浄化療法部の山田保俊准教授は「コロナ禍という未曽有の状況に遭遇し、家族と時間をかけて話せなかった医療現場もあるのでは」と推測する。
鹿大病院ではコロナの感染状況をみながら、腎移植をほぼ中止することなく実施。昨年は生体腎27件、脳死腎1件の計28件を行っており、19年の計26件とほぼ変わりなかった。
山田准教授は腎臓移植を受けるまでの平均待機期間が約15年に及ぶと説明し「待っている人のことを考えると、コロナ禍で臓器提供が全て中止となる事態は避けなければならない。腎移植はもちろんだが、心移植や肺移植の希望患者はさらに待ったなしの状況だ」と語った。
JOTに移植希望登録しているのは、20年12月時点で全国が1万5060人。県内の腎移植希望は85人だった。山田准教授は「提供意思の表明を個人に委ねている現状では移植医療の広がりに限界がある。県や国はもっと積極的に取り組んでほしい」。県移植医療アイバンク推進協会は「気軽な話題ではないだろうが身近な人と提供意思を共有してもらえたら」としている。