描く様子をタブレットで撮影し、オンラインでウクライナの子供らに教えるルドルフ・ヴィクトリアさん=鹿児島市
ロシアに侵攻されたウクライナから鹿児島市に避難したルドルフ・ヴィクトリアさん(48)が、母国の子どもにオンラインで絵画を教えながら交流を続けている。戦争で傷ついた心を癒やしてあげたいと、デザインに関わる仕事をしていた経験を生かして週3回ほど手ほどきする。「つらい状況でも健やかに育ってほしい」と願っている。
8日夕、ヴィクトリアさんは身を寄せる娘の郡山虹夏(にか)=ルドルフ・ヴェロニカ=さん(26)一家宅の一室で、ウクライナの子どもら5人に絵を描くコツを伝えていた。
スケッチブックに右手で絵筆を走らせ、その過程を左手のタブレット端末で自撮りしてネットで中継する。子どもたちは画面越しに筆遣いを見ながら、思い思いに描いていた。
ヴィクトリアさんは戦火が激しさを増した3月、東部ドニプロ市の一時避難先で空を飛ぶミサイルを見た。命の危険を感じ、家族3人での避難を決めた。ポーランドを経由し、3月中旬、鹿児島に逃れた。
現地では今も砲撃を恐れ、外出しにくい状況が続く。子どもも家にこもりがちになり、友人と話す機会が減ったと聞いた。
そこで得意の絵をボランティアで教えようと思い立った。6月ごろから始め、インターネットを通じて母国の顔なじみが集まった。現地に残っている子どもだけでなく、他国へ避難した子も参加している。
絵を教える際は、何げない会話を積極的に交わすよう心がける。戦争におびえる暮らしで緊張が解けないのか、初めはじっと画面を見るだけの子もいたが、次第に落ち着きを取り戻した。「話すことでうつ状態になるのを防げる。少しでもストレスを減らせれば」
鹿児島に着いた当初は、今後の生活への心配もあった。日本語が堪能な虹夏さんらの支えで「鹿児島の人たちの優しい気持ちが伝わってきた」と話す。
戦況の行方が見通せない中、当面は鹿児島で過ごすつもりだ。戦争が終わった後を見据え、日本で学んだことや感じたことを、母国の復興のために持ち帰ろうと考えている。
「鹿児島で心の余裕とエネルギーの補充ができた。いつになるか分からないが、ウクライナは平和と自由を取り戻す。その時に母国の役に立ちたい」