石川県手取川で見つけた淡水二枚貝テトリニッポノナイアの化石
■サラリーマン化石ハンター・宇都宮聡さん
前回紹介した石川県白山市の巨大な獣脚類の歯化石発見には、前触れがありました。カメの化石です。
ティラノサウルスをはじめとした獣脚類の肉食恐竜は植物食恐竜を求めて、水辺にも現れたようです。カメは、恐竜時代から姿をあまり変えていません。中生代の地層でカメの化石を見つけたら、近くに恐竜もいたはずだと考えていました。
2008年6月当時、転勤で金沢市に住んでおり、白亜紀の地層が分布している、隣接する白山市の手取川上流部に化石の発掘調査に出かけました。
川をさかのぼった所で、化石が含まれていそうな真っ黒な泥岩を見つけました。細かく割ると、淡水性の二枚貝やタニシに交じり、バラバラになったカメの甲羅の化石が出てきました。これは恐竜も可能性があるぞ!と意気込み、さらに上流に向かいました。
昼食は、大きな岩の上に陣取り、おにぎりを頰張りました。何となく下の方に目をやると、河原に大きな泥岩の塊が落ちています。表面にはタニシだけでなく、テトリニッポノナイアと呼ばれる美しい二枚貝が浮き出しているのが見えました。
これは素晴らしい石だ、と近づくと、目がくぎ付けになりました。恐竜の歯の一部が露出していたからです。慎重に周りの岩を割ると、8センチを超える牙が出てきました。全身の震えを止めることができませんでした。実は恐竜の化石を発見したのは初めてでした。しかも憧れの獣脚類で、大きさだけでなく、歯の先端まで残されており保存状態は最高でした。不思議な高揚感に包まれながら、山の神に感謝した瞬間でした。
鹿児島県長島町獅子島のボーンベッド(骨が密集して埋まった層)や和歌山県湯浅町のスピノサウルスも発掘現場でカメの甲羅を見つけました。自分の考えに間違いがなかったと確信しています。
【プロフィル】うつのみや・さとし 1969年愛媛県生まれ。大阪府在住。会社勤めをしながら転勤先で恐竜や大型爬虫類の化石を次々発掘、“伝説のサラリーマン化石ハンター”の異名を取る。長島町獅子島ではクビナガリュウ(サツマウツノミヤリュウ)や翼竜(薩摩翼竜)、草食恐竜の化石を発見。2021年11月には化石の密集層「ボーンベッド」を発見した。著書に「クビナガリュウ発見!」など。
(連載「じつは恐竜王国!鹿児島県より」)